チロルの空想世界

オリジナル小説を載せてます。良かったら読んでいってくださいね。

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

お屋敷の残響(5)

街から離れるにつれ、店も人も少なくなり実家につく頃には明かりもない寂しい夜になっていた。 裏山の山道へ行き先を指定していると、運転手のおじさんがオドオドし始めた。 「ほ、本当にこっちですか?」 何度もバックミラーでこちらを確認している。 こん…

アコルト(17)

小野は楽譜を出さずに鍵盤に細い指を置いた。 練習中いつも聞いているが、今回ははじめて俺以外の人に聞かせるということで、見てるこっちが緊張してきた。 間違わないだろうか。いや、間違えてもいいんだ。別にコンクールでもないんだから。 リラックスしろ…

お屋敷の残響(4)

時間がきてお風呂場を覗いてみた。 しかし、排水口に絡まった黒い塊は、所々その長い形状を削いだように千切っただけで、思ったほど溶けていなかった。 もっとたくさんかけれるのかしら? そう思い、まるまる一本かけて時間を多めに取ってみたが、それでも結…

アコルト(16)

その日以来、毎朝高岡さん、平野さんと一緒に駅まで向かうようになった。 朝の短い時間ではそれほど会話も出来ないが、それでも二人のことが少しずつ分かるようになった。 平野さんは火曜に放送されるドラマが好きで、水曜日はたいてい「昨日見た?」から会…

お屋敷の残響(3)

耳鳴りの合間に報道の声を見つけた。 例の捕まった男が自供したという。 被害者の女性が帰宅したのを隣の部屋で待ち構えていて、部屋に引きづりこんだらしい。 はじめは殺すつもりはなかった。しかし、女性が行方不明になったということが思いの外早くに騒ぎ…

アコルト(15)

帰り道、高岡さんと平野さんが前を歩きながら何やら話していた。 話しの内容は聞こえてこなかったが、二人も毎朝顔を合わせているのだから簡単な自己紹介でもしているのかもしれなかった。 二人の背中を見ながら、俺は小野との話題を持て余していた。 先ほど…