アコルト(40)
そこに立っていたのは、姿勢がよく、野性的な魅力を醸し出す面持ちの男だった。
そいつのことはしっかり覚えている。
ダメージジーンズに緑のスタジャンを羽織っていた。
人気ダンスグループのメンバーにいてもおかしくないような端正な顔立ちに、服の上からでも分かる、絞った体。
魅力的なその姿で、正義感かざして胸糞悪い奴だ。
女どもは目の前に現れた王子さまに色めきだつ。
一瞬で俺はそいつがいけ好かないと悟った。
「なんでもないですよ」
へらへら笑いながら俺は答えた。
「俺らちょっと遊びに行こうって話してたとこなんすよ。俺車持ってるし」
「えーお兄さん車持ってんの」
女の中の一人が食いついてきた。
「持ってる持ってる。こう見えてもR大通ってんだよね」
R大といえば世間的にお金持ちで頭のいい奴らが通う大学で通っている。
正直、俺もこの大学名のブランドには感謝している。
ここに入るために必至に勉強したのは嘘ではないし、親もそこそこのお金を持っている。
大学入学してから、大学名を出すだけで女の反応は変わるし、世間の人の目も変わることを面白いほど味わってきていた。
「本当にー?」
「本当だって」
そういって学生証を見せると、二人の女が俺の腕にすがりついてきた。
どう見ても相手の男に学はない。
きっと高卒か下手したら中卒かもしれない。
俺は盛大に見下してやった。
なのに相手は悔しさも、いらつきも色も見せない。
相変わらず自分の信じた正義と圧倒的な自信で俺の前に立っていた。
どこまでも気に食わない男だ……!
「んだよ。その目は。女の子たちも来るって言ってるだろ。一緒に遊びに行くんだよ。問題ねぇだろ」
一人の女が やめなよ 帰ろうよ と引き止めていたが、俺は二人の女を強引にひっぱって仲間の所へ向かった。
「この子たちが未成年だって分かってるよな」
後ろから男が俺の腕を掴んだ。
「っせーな! いいって言ってんだろうが!」
振り向き際に盛大に殴りかかった。
気に食わない!
なんだその瞳は!
顔面に向かって俺は何度も拳を振り下ろした。
先輩たちもここぞとばかりに寄ってきて一緒になって相手を蹴り始めた。
この女たちも分かってんだよ! それでついてきてんだよ!
なにカッコつけてんだよ!
馬鹿のくせに俺を非難すんじゃねぇ!!
女達は悲鳴を上げて逃げようとした。
そのうちの一人を先輩が羽交い締めにして取り押さえた。
「せっかくのお楽しみを逃すわけねぇだろ」
女は泣き叫んでいた。
その声にますます興奮した俺たちは、顔を押さえて蹲っている相手を何度も殴打した。
なんだこの高揚感。
楽しい。
面白い。
笑いまでこぼれてくる。
一通り暴行して、疲れたころに相手が痙攣しはじめ、なんだか酔いが冷めてしまった。
血や嘔吐を撒き散らし、ご自慢の面も見難く潰れている。
馬鹿が。
俺は足で後ろ向けに転がして、後ろポケットに入った財布を抜いた。