アコルト(39)
「ここに置いてある、これ何」
それは、棚の上にずっと置いていた黒い財布だった。
はじめて小野を泊めた時から、ここにあることは分かっていた。中にお金が入っていることも。
でも敢えて俺は置きっぱなしにしておいたのだ。
「これ、律の物じゃないよね」
小野の目は笑っていなかった。
……こいつこの財布のことを知っている?
どこまで知っているんだ?
息が詰まる。
喉に何か詰まっているような、締め付けられるように苦しい。
確かにこの財布は俺のものではない。
俺の犯した罪。
なかったことにしようとしていた過去。
……知っているのか?
でも、どうして?
あれは俺が18の時だった。
大学に入学し、親元を離れ一人暮らし。
悪い先輩たちと知り合い、酒に女、薬など色んなことを覚えた。
楽しかった。
ただ、そういう遊びにはお金がかかる。
クソ真面目に時給数百円のバイトをしたところで貯まるのは微々たるもの。
そこで、俺達はもっと簡単にお金が手に入る方法を選んだ。
そう。人のお金をもらうのだ。
麻雀をし、負けた奴がお金を調達してくる。
方法はなんだっていい。そういうルールだった。
そして、その日、俺が負けた。
かなり泥酔していた俺は先輩や友達に支えられながらふらふら外へ出た。
外はもう夜で真っ暗だったと思う。
さあ、どうやって調達しよう。
どこかの家に忍び込もうか。
それとも誰かすれ違った相手を脅して……。
そんなことを大声で笑いながら話ていると、制服を着て屯っているJK集団を見つけた。
おい、JKだぞ
かわいいじゃん
お前声かけてこいよ
気も大きくなっていた俺は一人でJKの群れに向かっていった。
「ねぇ、何してんの」
女の子たちがどんな顔をしていたかなんて覚えてない。
女のフォルムをしていればそれでいいのだ。
ついてるもんがついてりゃそれでいい。
一人の女の子の腕を引っ張って半ば強引に連れて行こうとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「おい、何やってんですか!」